永遠の仏陀からのメッセージ 『日本編』企業シリーズ 9

3月29日朝5時45分、仏陀は、修行に入る、と言われた。
『日本編』企業シリーズ 9
男は、社長の好意に感謝した。 社宅での生活が始まった。 家族には、今までの明るい団らんはなくなっていた。
男は、帰宅すると一人でテレビを見ていた。しかし何を見ても上の空で、失った金のことが頭から離れなかった。 会社へ出勤しても今までの働きができなかった。 暗い顔つきだった。起きてしまった事態と後悔が、頭に常に浮かび消せなかった。 会社の帰りに飲み屋にいった。ほろ酔い加減でいると、隣の客の噂話が聞こえてきた。「うちの近くの町工場でひどいやつがいて金に困り、闇金融に手を出した挙げ句返せなくなって一家で夜逃げしたんだとさ…」
男は隣の客に事の成り行きを詳しく聞いた。 間違いなく男の友人だった。 どこへ逃げたか聞いた。「噂だと故郷へ逃げたそうだ」と言った。 さっそく男は、会社から有給休暇を取り、逃げた友人の故郷の実家へと向かった。 友人の実家は、過疎地だった。 山と畑に囲まれた中に古い家があった。玄関に出てきた老夫婦は、友人の親だった。訪ねてきた訳を話すと老夫婦は、息子の失態を地べたに這いつくばって謝った。父親は、言った。「息子は、金の無心に来ましたが、『私らは、食べてゆくのがやっとで金はないよ』と言うと、プイッと出て行ってしまいました」
「申し訳ございません。私どもには、どうすることも出来ません」と、老夫婦は、涙を流して謝った。
男は、老夫婦に別れを告げ、失意のままに家に帰った。会社に出勤しても今までのように働けなかった。沈んだ顔をして歩いているとすれ違う社員が、皆自分の噂話をしているような気がして滅入っていた。
ある日、見るに見かねた妻が言った。「このままだと家族は崩壊してしまう。 どこか近場の温泉へでも行き、神社にお参りをして厄払いしてもらいましょう。 いつまでも失った物にこだわっていたら皆病気になってしまう」
男も同感だった。 会社に有給休暇を申請し、温泉へ行くことにした。宿の露天風呂に入っていると隣の垣根越しから鼻歌が聞こえてきた。 何と金を騙した友人の声だった。 急いで着替えて隣の風呂に行って、金を取った男に迫った。呑気なもので「無いもの出せない。どうしても、と言うなら首を切って持っていけ!」と悪びれもせず言い放った。詰め寄って迫ったが、耳をかさず「無いものは、無い!」と繰り返した。
この友人に学生時代の面影は、微塵も見られなかった。あまりに変わり果てたふてぶてしい姿に、男は安易に金を貸した自分の愚かさを心から後悔し反省した。 部屋に戻り妻に話した。家族で神社に参拝して帰路に着いた。 男は、神様からの厄払いではなく、自分自身の心で厄を払った。立ち上がれる力が、体を包んだ。