2025年9月7日朝8時10分。ブッダは、ブッダシリーズが始まると言われた。
『日本編』ある男Bシリーズ 2
男は、青年の瞳を見つめていた。その瞳は、まぶしかった。自分が失ったものの大きさに気が付いた。青年は、将来の希望に満ちていた。人生の波濤を乗り越えようという強い意志が見られた。
自分自身に光を灯し、社会に生きる道を模索していた。男は、青年の話を聞きながら青年との旅を考えていた。お互いに共通する意識の確認をし、思い切って問いかけた。青年は一瞬たじろいだが、「面白そうですね」と答えた。
青年は、会社に退職届を出した。男は妻と家族に1週間有給休暇を取り、旅に出ることを告げた。妻は何のことだか理解できなかったが、夫の最近の沈みがちな様子に強く否定することはできずに聞いていた。妻は今まで自分中心で動いていた家庭生活の軸が、夫の突然の言葉で崩される不安に襲われていた。今までの安定した家庭生活、人並みの生活が崩れるのを恐れた。しかし夫の言葉には、反論し難い強い意志を感じた。会社は、建前では有給休暇はあるが、突然の1週間の休暇の申し出を決して快く受け入れなかった。男は、自分がいない間の仕事の段取りを周囲の者に告げ、いなくてもできるように準備をした。これまで疑問を持たずに働いていた時とは違って、男には青年のように心に灯火が点いていた。
10月の中旬、男は軽い出で立ちで、最低限の荷物をリュックに詰めた。目的地は特別なかった。なるべく自然の中で歩きたかった。青年も一致して海と山が見える目的のない旅に出発した。都会から離れて、ただひたすら鉄道にゆられてゆくとやがて岩に荒々しく波がぶつかる海辺の景色が展開した。遠くに見える景色の処に行くことに決めた。下車して歩いた。不思議な気持ちだった。まだ大してお互いを理解し合えない2人が海辺を求めて黙々と歩いた。車窓から見えた景色が目の前に迫ってきた。
2人は、人がいない岸壁に座り、打ち寄せる波や大海原を眺めていた。男は潮風にさらされながら自分を見つめていた。会社で働き、家庭を築き、当たり前の生活をするために働いていた。当たり前の社会の一般人の基準を保つためにがんじがらめになり働いていた自分の姿に気がついた。心は自由となったが、反面今まで築いていた家庭の重みと責任を感じ、心が痛んだ。自分を満たすために何が欲しいのかも分からなかった。今まで凝り固まっていた自分自身の枠が、打ち寄せる波によってボロボロと砕けていくようだった。青年は広い海原に自分の未来を感じ、寄せくる波に闘志を燃やした。会社を辞め、何も束縛されるものがなくなり、身が軽くなっていた。自分の安定したレールを断ち切り、未来への旅の一歩を歩み出した。新鮮な躍動を感じた。青年は男に話した。「僕は勇気を出し、会社を辞めてよかった。他人から見たら一流会社かもしれない。もったいないと言われる。今の僕にとって、それは社会の基準であって僕自身ではない。ここへ来てよかった、何もない真っ白な自分になれた。自分自身で人生の舵取りができたような気がする」と言った。男は青年の言葉が眩しかった。
男は、決心をした。これから自分自身の舵取りをして生きていこう。家族は多少犠牲になるかもしれない。残された人生をどう生きるか、真剣に考えることにした。自然は素晴らしかった。この人気の少ない浜で男と青年は語り合った。
人生を見つめる力と勇気を感じていた。男は、青年の素直さに心打たれた。青年は、社会人の先輩が心開いて語る姿に余計親しみを持った。いつしか、夕陽は水平線に沈もうとしていた。隠れゆく太陽に空全体茜色に染まり、二人の感動は頂点に達した。陽は落ち、次第に夕闇が迫る中静かに宿へと向かった。心は、清々しく軽ろやかだった。
ブッダは言われた。「人生行き詰まった時、大自然の中に身を委ねよ。大自然と1つになれば身は軽くなり、本来の自分の姿が見えてくる。人間は自然界の一員である」