死後の霊の存在など微塵も信じることのなかった私が、仏道修行に入り、間もなく忽然と霊の世界が開けた。私の場合は、いわゆる個人的な霊感ではなく、妙法蓮華経という御経の力によって現わされる霊的世界なのだ。だから私自身霊の状態によって影響されたり支配されたりすることは、ない。
2年ほど前に母が、亡くなった。
病院から家に帰り臥した母のもとに真っ先にお線香をお供えしようと近づいたのは、私の兄だった。
兄は、仕事で忙しく病院で息を引き取った母の死に目に会えなかったのを悔いていたのだろうか。自信がなさそうに背中をやや丸くしていた。母への思いも深くあったのであろう。
母(の霊)は、まだ亡くなったばかりで弱弱しながらもそんな長男の背中にそっと触れて労わるようにしていた。「良いんだよ。お前は、そんなことを気にすることはないんだからね」と・・・・
そんな亡き母の思いを兄にそっと伝えたところ、目は潤みはじめた。
ああ母というものは、死んでも子(六十歳過ぎ)のことをやさしく思いやるものなのだ・・・・
つい霊が存在するか否かなどに興味がゆきがちであるが、ほんとうに大事なことは、霊的姿形の奥にある心を感じることだと思う。肉体のある時もそれは同じこと。しかし姿形へのとらわれは、しばしば物事の本質から私たちを遠ざけている。