2025年4月3日朝5時40分、仏陀は、修行に入る、と言われた。
『日本編』企業シリーズ 18
社長は、退任の日を迎えた。 社員全員の前で退任の挨拶をした。 今まで自分を支えてくれた社員に礼を言った。 次期社長並びに会長を紹介し、社員一丸となって会社発展のために働くよう、話した。 そして、社員には引き続き朝礼で太陽に掌を合わせること、社員同士皆挨拶することを約束させた。話が終わると一斉に盛大な拍手が起こった。退任を惜しむ声が、囁かれた。社員から大きな花束が送られた。社長は、役員社員に見送られて会社を後にした。
家に帰り、亡き妻に退職のことを伝えた。社長は、朝晩仏壇に掌を合わせ妻に挨拶と感謝の言葉を伝えた。妻に影膳を供えて、妻が支えてくれていたことを心から感謝した。見えない妻が、そばにいるようで幸せだった。
そうして平穏な日々を過ごしていると、インターホンが鳴った。出て見てみると金を持ち去り夜逃げした友人だった。社長は、絶句し動揺した。男は、みすぼらしい姿だった。 男を家に上げて話を聞いた。男は、金を持ち去ったことを心から謝った。 社長と温泉で会ってからというもの苦労の人生だった。土方をしてやっと金を貯めることができた。 借金の一部だが受け取ってほしい、と肩を落として金の入った袋を渡した。男の頬から涙が伝った。動揺していた社長は、男の姿をじっと見つめ話に聞き入っているうちに「かつて、この男を恨み追いかけもしたが、思えば自分はこの男により立ち上がったのだ。 この男がいなかったら、今の自分がない」と深く考えるに至った。そして男と学生時代を懐かしく語り合った。 社長は、話の途中裏の部屋にゆき、頂き物の菓子箱の上に男が返した金の袋を置いて袋に丁寧な字で「ありがとう」と書いた。そして菓子と金の袋を包装紙でくるみ紙袋に入れた。 男が帰る時、社長は「もらいものだ。手土産だよ」と言って袋を渡した。
男は家に帰り、紙袋の中身を開けた。返したはずの封筒に書いてあった言葉を見た。 男と妻は号泣した。男は、「多くの人に迷惑をかけてしまった。これからは人のお役に立てることをして生きよう」と誓った。男は、ホームレスの人たちを救う慈善団体に金を全額寄付した。