2025年4月24日朝5時40分。仏陀は、修行に入ると言われた。
『日本編』ある男Aシリーズ 14
外人の妻は、夫の姿を見て涙をこぼした。夫の顔を見つめて何も言わず泣きながら帰った。夫は、妻の泣く後ろ姿を見て、外国からついて来てくれた妻を悲しませてしまったことを感じ、嘘をついたことを心から申し訳なく思った。号泣したいのは自分だった。夫は自宅に帰り、妻に心の底から謝った。妻は、ただ泣きじゃくるだけだった。外人の妻は、夫のことを薄々感じていたが、清掃夫になった夫を見て、隠し事までして働いている姿に愛想を尽かし、裏切られたと感じていた。離婚して母国に帰ろうと思った。夫は、翌日目が覚めると父親のしていたことを思い出し、朝日に掌を合わせた。そして妻に笑って挨拶をした。妻は、夫がふてくされた顔をしていると思ったら、その明るい顔つきに夫の変化を感じ、少し我慢して一緒にいようと決心した。
夫は出社した。いつもと違って仲間に自ら率先して明るい顔で挨拶をした。今まで遅いと言われた仕事を手早くできるように努力した。
一ヶ月経った。息子(夫)は、人並みに掃除をできるようになり仲間からも仕事ぶりを認められるようになった。
三ヶ月経った。その息子の仕事ぶりはさらに変わった。手早く清掃し、他に足りないところはないかを手早くチェックした。仲間から仕事ぶりを評価されるようになった。
六ヶ月経った。息子の仕事ぶりは認められ、他の職員を差し抜いてグループの長に抜擢された。息子は自分の自慢話をしなくなり、人の話をよく聞き、仲間に認められ、よく気がつくことなどが評価された。若くしてグループの長となっても威張らなかった。腰が低く、誰とでも気軽に明るく挨拶をした。グループ長の集会でも評価された。息子の仕事ぶりを見た上司は、「今度、ホテルにビップ客が泊まるので、君が部下として一緒に働くように」と指名した。上司は息子の仕事ぶりを高く評価し、将来自分の後を任せられると見ていた。
一年経った。息子は、ホテルの清掃会社から各グループの一番の責任者に任命された。息子は仕事が面白かった。仕事に生きがいを感じていた。
一方、父親の男は仕事が大成功し、安泰の日々を送っていた。グルメ志向のイタリアンレストランの経営の成功をもとに、イタリアンのファミリーレストランを作ろうと思った。妻は賛成した。妻は夫に息子を戻し支配人にしたらどうかと持ちかけた。男は首を振らなかった。まだまだ苦労させねばならないと言った。男のファミリーレストランはオープンすると評判になり、軌道に乗った。男は、息子に初めて電話をした。息子は父親からの電話に驚いたが、帰りたいとは言わず、仕事が楽しいとだけ話した。
男は、息子の喜んで働く姿に安堵した。息子は、仕事が面白くて故郷には帰りたいとは思わなくなっていた。
仏陀は言われた。「苦労は魂の成長のもとである」