2025年4月18日朝5時45分。仏陀修行に入ると言われた。
『日本編』ある男Aシリーズ 2
男は久々に故郷に帰った。葬儀が終わった翌日の早朝、目が覚めて外に出てみた。目の前に広がるのどかな景色、遠くに連なる山々が広がっていた。ひんやりとした心地よい空気が男を包んだ。地方都市の小さなマンションの部屋から見る景色とは、あまりにも違っていた。魂が、よみがえるのを感じた。
男の魂は故郷に帰り、光り輝いた。男は、自分の生きる場所はこの大地しかない、と感じ決心した。男は妻に「俺は、ここに住むことに決めた」と宣言した。男は今まで妻の言いなりに動いていたが、今回は違っていた。何を言っても動かない力強い言葉を感じた。妻は「ここに住むの?」と呆れたような声を出し、「私は都会育ち。お店やコンビニがたくさんあり、賑やかなところしか住めないわ」と言い返した。男は頑なに「俺はここに住む」と言い返した。妻は、夫のあまりにも強硬な態度に従わざるを得なかった。女にとって滅多にない妥協だった。家族は、街に帰った。男は会社に辞表を出し、諸々の引っ越しの手続きをした。
男は、3月の末に故郷の住人となった。子どもたちは、新しい学校の手続きを終えて新入生となった。子どもは、喜んだ。都会にはない広い校庭に青い空。古い家は広くて駆けられる。畑を歩いて学校へ行く。どれも新鮮だった。妻は、突然訪れた田舎暮らしにこれからを思うと心細かった。と、同時に夫に妥協した自分が悔しかった。
男は田舎で育ったが、本格的に農業をしたことはなかった。幼い頃から親の仕事を見よう見まねで手伝っただけで都市の大学へ行ったので、一から教わらなければならなかった。母親と近隣の農家から種まきの方法を学び、本で農業の勉強をしていた。
一ヶ月経った。妻は慣れ無い古くて住みづらい家で、姑からいつも見られているようで息苦しかった。パートで働きたくても働く場所はなかった。これから農作業なんてやれないと思った。妻は、夫に「私、ここでは暮らせない。息苦しくていられない。街へ帰りたい」と強く言った。夫はただ一言、「俺はここに住む」と言った。女は、「私にはできない」と譲らなかった。長い時間は、かからなかった。女は「私、街に戻ります」と言い、夫は「一人で行けばよい」と返した。女は「子どもは、引き取ります」と言った。しかし現実のところ、働いて子どもを育てる自信はなく、「子どもたちに訊いてみましょう」と言った。子どもたちは、普段から険悪な親の雰囲気を察していた。夫婦一緒のところで子どもたちに話をして「どうしたいか」を訊いた。すると子どもたちは、「都会の学校より田舎の学校の方が数段いい。おばあちゃんもいるし、楽しい。お母さんと別れるのは嫌だが、田舎に残る。会いに行きたいときは連絡するからね」とあっさり言った。女は呆然としたが、田舎で一生を過ごしてはいられないと思い、離婚を決意した。