永遠の仏陀からのメッセージ『日本編』ある女シリーズ 9

2025年4月16日朝5時45分、仏陀は、修行に入ると言われた。
『日本編』ある女シリーズ 9
女は惨めだった。昨年は歓声の渦に囲まれ、今は見向きもされない。人間の薄情さを噛みしめていた。
女は地方へ帰った。工房として借りたマンションを返し、パートを解雇し、細々と地方ドッグファッションデザイナーとして仕事を再開した。仕事をしていても、以前のような張り合いを失っていた。そんな時、かつて犬を譲った友人が訪れた。友人は、犬に会いに来たと言った。「犬がいなくなり心の張りを失った。金儲けもできない。獣医に金がかかると怒ったあの時が一番幸せだった。今は何もなくなり、寂しくて犬に一目あって謝りたい」と涙をこぼした。女は、「犬は亡くなった」と伝えた。一年前の女は仕事が忙しくて犬が亡くなっても悲しむゆとりがなかった。犬の死は、一つの出来事として通過していった。仕事が減り、気分が落ち込んでいた時に、友人の言葉で今、犬を失ったことを悲しみと捉えることができた。それより仕事の痛手が女を悲しませた。2人の女は互いに涙をこぼして語り合った。お互いに嘆き悲しんだが、悲しみの意味は違っていた。同じ空間を共有しただけだった。
女はこの状況から抜け出したかった。犬を買おうとペットショップに見に行った。どの犬も可愛かった。女は生き物を飼い、自分が犬に翻弄された人生に気がついた。
飼うことをやめた女は、このまま地方のドッグファッションデザイナーで終わりたくなかった。過去の実績を経歴として都市の日本一のペットショップデザイナーとして採用の願書を出した。ペットショップから採用の通知が届いた。女は、ペットショップで専属デザイナーとして新たな人生をスタートさせた。一流ペットショップは、日本の金持ちが顧客だった。女の作る服は犬に着せやすく、歩きやすく、優雅で評判だった。客から褒められ、ひいきの客ができた。
客の中でも一番の常連が世界一を決めるドッグショーに出場したいので、服を作ってほしいと依頼してきた。女は、願ったり叶ったりと興奮した。自分が世界の舞台に立てることが夢のようだった。女は前回の苦い経験を生かし、過去の世界のドッグショー大会の資料を取り寄せ、丹念に研究した。
ドッグショー世界大会が、世界的避暑地スイスの湖畔で開催された。世界各国から自信ある愛犬家が集まった。7月のスイスは美しかった。会場は、連なる美しい緑の山々に囲まれていた。目の前の湖畔には優しい風が通り抜け、ヨットは風を受け、帆をたなびかせていた。映画で見たような景色の中にいる女は、これだけでも十分幸せだった。
もはや過去の闘争心はなかった。会場の雰囲気に陶酔した。人生最高の幸せな時間だと思った。いろいろな国の犬が舞台を歩いた。自分の作った服を着た犬が現れた。犬は飼い主に連れられて舞台を一周し、舞台の前の観客に尻尾を振り、嬉しそうにポーズをとった。観客はそれぞれの国の言葉で「さすが日本の犬は優雅で可愛い、犬に礼儀がある」と絶賛した。観客は洋服より犬を見て褒めた。女は観客の一員として自分の服を着た犬を見ていた。女も他の観客と同感だった。審査の結果が発表された。女の洋服を着た日本の犬は2位だった。女は驚いた。
自分を上回る可愛い服の犬がたくさんいたのに、受賞できたことが信じられなかった。と、同時に嬉しさがこみ上げてきた。審査員は、「洋服はとてもエレガントだった。洋服を着た犬は晴れの舞台で緊張せずに歩き、客に挨拶をしてとてもチャーミングだった。洋服が犬をリラックスさせている」と評価した。女の作る服は犬に着せやすく、歩きやすかった。女は初心を貫いて服を作っていた。
仏陀は言われた。「仕事の基本姿勢を崩さず、自分の器以上を望まず努力せよ。必ず道は開ける」