永遠の仏陀からのメッセージ『日本編』ある女シリーズ 8

2025年4月15日夕方5時。仏陀は、修行に入ると言われた。
『日本編』ある女シリーズ 8
女が日本一になったことを実感したのは、授賞式が終わった後だった。報道関係の取材を受け、カメラに囲まれ、インタビューを受けて一躍有名人になった気分を味わった。愛犬家たちが女を囲み、犬の洋服を注文した。女にとって一年分の仕事だった。注文を受け付けた。
そばでその様子を見ていた去年の1位、2位、3位の受賞者は面白くなかった。「着やすいの、歩きやすいのと言ったって、自分たちのデザインの方が垢抜けているのに」と陰口を囁きあった。都心の広い会場には、女の知り合いはいなかった。女は孤独だった。けれども幸せだった。都市の有名デザイナーたちは多くの顧客を持っていたが、自分たちの客が女の方に行き、注文をしている様子を見ると不愉快だった。来年こそは、取り返そうとお互いに誓い合った。
女は、地方へ帰ると早速マンションの一室を借りて工房を作った。縫製の助手をパートで雇った。女は、縫い方を的確に指示した。女の仕事は、丁寧だった。仕事には厳しかった。洋服が出来て送ると、客から満足との言葉が返ってきた。一生懸命仕事をした甲斐があり、注文は全部無事に納品できた。
コンテストから一年経った。今年の犬の日本一を決めるドッグファッションショーが開かれた。愛犬家たちは、自慢の犬に洋服を着せて舞台をゆっくり歩いた。女の洋服を着た犬が現れた。アナウンスで去年の優勝者◯◯さんの作品ですと紹介されると会場の愛犬家の視線が犬に洋服に集まった。愛犬家たちは「かわいい。さすがね。優雅だわ」とつぶやきあった。会場は去年の受賞者ということで、空気が一段と華やいだ。女は、自分が日本一と実感できる最高の瞬間だった。拍手に送られて女の洋服を着た犬が退場した。
次に、去年2位を受賞した都市の一流デザイナーの服を着た犬が舞台を歩いた。会場は、歓声が上がった。観客は「可愛い。垢抜けている。一流デザイナーは違うわね」と言い合った。会場は、女の時より数段盛り上がっていた。女は、どう見ても自分の作った洋服を着た犬より素晴らしかったと思った。一瞬にして奈落の底を味わった。
授賞式が行われた。1位は、去年2位の受賞者で一流ドッグデザイナーだった。2位は、去年3位の受賞者で一流のドッグデザイナーだった。3位は、女だった。授賞式が終わると、愛犬家たちが1位の都市の一流デザイナーを囲んで犬の洋服の注文をした。去年女が受けた客たちだった。一流ドッグファッションデザイナーは、女の犬の服をほどいて丹念に研究した。垢抜けたデザインで、かつ歩きやすく、着やすい服を作った。去年注文した客は一流ドッグデザイナーに集まり報道関係の取材も女のところへは来なかった。
仏陀は言われた。「長になったと安心してはいけない。努力をしなければ、後から来るものに座を譲ることになる」