2025年4月14日夕方5時。仏陀は、修行に入ると言われた。
『日本編』ある女シリーズ 6
女は犬を連れて帰った。犬は以前のような元気はなく、常に横になっていた。ペットとして面白くなかったが、犬で少しいい思いをさせてもらったので我慢しなければ、と自分に言い聞かせていた。散歩に連れて行っても犬は、元気なく歩いた。かつて犬が元気だった時は、前方から犬と散歩する人が近づいてくると大きな声で挨拶をし、四方山話をした。しかし、今は他の犬と比べ引け目を感じ、犬を連れて散歩する人とすれ違っても、軽く会釈するだけで通り過ぎた。女の性格としては、楽しくなかった。満足しなかった。暇な毎日を送っていた。
女は、近所の女の家へ遊びに行った。近所の女は、刺繍をしていた。サークルで習っていると言い、楽しそうだった。近所の女が勧めてくれたので、刺繍サークルに入会した。サークルの指定の道具を揃えて先生に教えてもらい、刺繍を一生懸命習った。他の生徒たちは、かなり上手だった。家に帰ってからも刺繍をしたので、作品は早く出来上がった。
サークルに持っていくと先輩たちが「早いわね、上手ね」と褒めてくれた。久々の褒め言葉で気分良くなっていた。先生にも「初心者にしては上出来です」と言われ、嬉しかった。先生は、次の作品のキットを女に与えた。早く先輩たちの見事な刺繍に追いつかなければ、と夢中で刺繍をした。家に持って帰っても熱中して刺繍をした。面白かった。サークルへ持って行った。女は先輩たちに「早いわね、上手ね」と褒められ嬉しかった。先生もまた褒めた。三作品目のキットが与えられた。
指示通り、先輩を見ながら負けないように夢中で刺繍をし、出来上がってサークルに持って行くと、先輩たちは「早いわね。でも、ここは張り目が荒い。糸の出し方が悪い」と批評した。先生も前とは違っていろいろと注意した。面白くなかった。
サークルで発表会があるので、自分の気に入った作品を提出するよう言われて、女は自分では自信がある三作品目のを出した。発表会が開かれた。いろいろの手芸作品が陳列されていた角に刺繍のコーナーがあった。女の作品は、名札が貼られて展示されていた。女は嬉しかった。人前に展示された喜びで心は踊っていた。客が来た。女の作品の前を素通りして先輩たちの作品に向かい、「見事な刺繍ですねえ」と賛美の声を上げた。女の作品は初心者だったので、目立たなかった。女は面白くなかった。人に注目されたかった。女は刺繍のサークルを辞めた。女は、家で犬と暇な一日を過ごしていた。
友達のところへ遊びに行った。友達は犬の洋服を縫っていた。「ペットショップのアルバイトで、家で縫っているの」と言った。興味ありげに見ていると「紹介してあげるからアルバイトで縫ってみない?」と誘われた。女は、かつて犬に洋服を着せて楽しんだ経験から喜んで誘いに乗ってアルバイトをすることにした。ペットショップへ行き、犬の洋服の材料をもらってきた。女は器用だった。久々の犬の洋服を見るのは楽しく、早く縫えた。犬に洋服を着せた経験があったせいか女の縫ったペット用の洋服は着せやすく、また可愛らしく工夫してあった。女の作る服は、ペットショップから褒められた。女は、自分の犬に洋服を着せたくなってなった。今いる犬は、体力もなく洋服を着せて散歩しても目立たない。新しい犬を飼いたいが、今の犬がいる以上飼うことはできない、と考えていた。
女が犬好きなことを知っている近くの人が訪れた。引っ越しをするのだけれどペットを連れて行けないのでもらってくれないかと話しに来た。聞けばとても良い犬種なので願ったり叶ったりで喜んで犬をもらうことにした。新しい犬が、女の家に来た。女は嬉しそうに女の一番お気に入りの服を着せようとした。犬は嫌がったが、やっと着せた。犬は無理に着せられたのを嫌がり、服を食いちぎった。
犬は洋服が嫌いだった。女の希望は、叶えられなかった。
仏陀は言われた。「動物は愛玩ではない。動物は、自然環境に適した姿で生まれてきている。洋服を着せる必要はない」