2025年4月15日朝5時35分。仏陀修行に入ると言われた。
『日本編』ある女シリーズ 7
女は、不幸だった。犬に洋服を嫌がられたことを悲しんだ。女は毎日毎日一生懸命、犬の洋服を縫った。ある日のことだった。犬と散歩に出ると、前方から可愛い洋服を着せた犬が来た。そばまで来て見ると、何と自分が縫った洋服を着た犬だった。女は興奮し犬に近寄り、「可愛いワンちゃんですね。素敵なお洋服ですね」と褒めた。褒められた飼い主は嬉しそうに頷き、礼を言った。女は、自分が縫った服とは言わなかったが、大満足だった。犬より服が目立つことが嬉しかった。ますます夢中で仕事をした。評判が良かった。
ある日、隣町の友人が、女の作る犬の洋服の評判を聞いてやって来た。「今度、私の地区で犬の服のコンテストがあるのよ。あなたに服を作ってもらいたい人が何人もいるの。作ってもらえないかしら」と打診に来た。女はコンテストと聞き、喜んで引き受けた。女の家に犬を連れた客が何人も訪れた。客の注文を聞き、寸法を図った。ある飼い主は犬にドレスを着せ、帽子と靴を注文した。別の飼い主は、犬に結婚式の振袖と日本編みの帽子を注文した。また、ある飼い主は、犬にタキシードを作ってほしいと言った。女は客の注文通りに作った。受け取りに来た客は大満足して帰った。
犬の洋服コンテストの日だった。会場の舞台には、「○○地区ドッグファッションショー」と垂れ幕がかかっていた。たくさんの愛犬家が集まり、会場は熱気に包まれていた。自分の犬は連れて来なかったが、女も犬の洋服製作者として興奮していた。ショーが始まった。舞台には紐で引っ張られた犬たちがゆっくりゆっくりと歩き、舞台を一周した。「キャン!」観客は「キャーッ!かわいい」思わずため息を漏らした。女の作った服を着た犬が現れた。女は、観客から口々に「あのワンちゃんの服、最高!」とため息が漏れるのを聞き胸が高鳴り、頭に血が上り、夢中で舞台の犬の服を見つめていた。審査結果が出た。女の作った服を着た犬が一等賞を取った。地方の新聞は、服を作った女を取材した。また、地方のメディアでその日の夕方放映された。
一躍、地方で有名な犬の洋服デザイナーになった。注文が殺到した。女は、ペットショップから独立して家で洋服を作ることにした。女の洋服は、犬に着せやすいと評判だった。注文客と話し、注文に応じた服を縫う充実した日々を送っていた。
地方で洋服を作る女のところに書簡が届いた。日本一を決める犬のファッションショーがあるので、地方地区のドッグファッションのデザイナーとして出場犬の洋服を作ってほしいという依頼だった。女は興奮した。自分は今まで地方ドッグデザイナーだったが、日本一を競うドッグショーのデザイナーに選ばれたことが信じられなかった。自分の実力は、首都の一流ドッグデザイナーより数段落ちると思っていた。世界のドッグファッションショーの雑誌を見ても、自分が作る服よりはるかに垢抜けた服があるので、その中で競っても勝ち目はないと思った。しかし依頼が来たことがすごい名誉なので、この話を引き受けた。女のところには全国から注文が来た。注文者の意見を聞き、サイズを測り、丁寧に犬の洋服を作り、発送した。
ドッグファッションショーのコンテストの日が来た。全国から来た出場犬は、それぞれ凝った服を着て舞台を歩いた。全国から集まった愛犬家たちは皆、興奮して舞台を見つめた。女の作った服を着た犬も舞台を歩いた。女は自分より垢抜けた服を着た犬を見て、勝目はほとんどないと思った。
発表があった。女の作った服を着た犬が一等賞だった。女は発表を聞いた瞬間、我が耳を疑った。
「自分の作った服が一等になった?ありえない」と思った。女は舞台に上がり、犬のそばに立った。審査員が、一等賞の授賞理由を説明した。「どの出場犬も素晴らしい服を着ています。しかし、犬が歩いたり駆たりすると動きがぎこちないのです。しかし、◯◯さんの作った服を着た犬は、のびのびと歩きやすく歩いている。可愛い凝った服を着て歩きづらそうな犬より歩きやすい服を着た犬に全員が高得点をつけました」と説明した。女は犬を飼った経験から、犬に着せやすく、犬が歩きやすい服を作ってきたことが役立った、と知った。
仏陀は、「人生の経験で無駄なものは何一つない。無駄だと思ったものも必ず生かされる時が来る」と言われた。