永遠の仏陀からのメッセージ『日本編』ある男Bシリーズ 6

2025年10月10日、朝6時。

『日本編』ある男Bシリーズ 6

男は、自分と考えの相反する若者との会話の中で、自分自身を見つめていた。決して孤独ではなかった。
昨日までの自分の人生にはないすがすがしさがあった。男は、青年に「若いとは、素晴らしいことなんだ。若い時だけにしか出てこないエネルギーがあるよ。なんのことも恐れないエネルギー、それが将来を開くんだ」と静かに言った。
男は、自分にかつてあった姿を青年に認めて、青年を励ましていた。男と青年は立ち上がり、本堂の前で掌を合わせ寺を後にした。男と青年は地図に書いてあった。小高い山の神社を目指し、歩き出した。

青年は、今まで会ったことのない人間の魂の深さを感じた。これまで若さゆえに見えなかったが、自分の器の小ささを初めて感じた。ショックだった。今まで、心で魂で生きる姿を言葉で教えてくれる人はいなかった。男に人間の重みを深さを感じた。歩きながら、青年は「僕は都会へ戻ったら、個人で塾をやろうと思っています。それも家を使わず、SNSで開講しようかなあ、と思っていたんです」と言った。「塾へ行かず、パソコンがあれば勉強できる。そんな時代が来るんじゃないかと思って、これからAIの時代だから…」青年の言葉は希望に満ちていた。

男は、青年の言葉を聞きながら、先の見えない将来と、ここで立ち止まり考えている自分の姿を見つめていた。確実に言えることは、元の自分には戻らない。自分の魂に正直に生きようとしていた。男は、自分にこれから何ができるかと考えていた。何が一番したいかを考えていた。若い時から一番したかったのは、車で走ることだった。車の運転が好きだった。男の趣味は、車だった。車に触っていれば、どんな不機嫌な時も気が晴れた。車種にはこだわらなかった。自分が運転することで、大きな車体が動くことに、快感を覚えていた。男は、車の趣味を生かした仕事がしたかった。タクシーの運転手、大型車の運転手、・・・・・頭に浮かぶ職種を考えていた。自分の趣味と仕事を結びつけると、生きる喜びを感じていた。
今まで、心から望む人生に蓋をして社会の通例に沿って生きてきた。その蓋を外すと、大きな期待と不安に包まれた。「そうだ。車だ。車を運転する仕事をしよう」と決心をした。自分自身を見つめることで、多くの人の世話になり、今まで生きて働いてきた自分の姿が見えていた。
男は、これから人から感謝される仕事に就こうと思った。かつて地方に住む実父が、介護タクシーの世話になり病院へ通院していたことを思い出した。父親は、介護タクシーの送迎なしでは、通院は無理だった。体を横たえなければ、通院できなかった。母親が、「介護タクシーの運転手は、親切な人で、心から感謝している」と言っていたのを思い出していた。介護タクシーの運転手を思い心が動いていた。男の人生に、新しい希望がエネルギーとなって湧いてきた。青年との出会いがなかったら、考えられない男の決断だった。

男は淡々と青年に「私は昨日の海で、今までどれだけ人のお世話になって生きてこられたかが分かったんだよ。これからは、何か人の役に立てる仕事がしたいと思っていたんだ。きみの輝く瞳を見てね、これからの自分に何ができるかを真剣に考えてたんだよ。私はね、介護タクシーの運転手になろうと思う」と淡々と言った。青年は、介護タクシーの言葉の意味もよく理解できなかった。ただ、漠然と今までの職とあまりにも、違う仕事で、驚きを隠せない表情をした。